朝の散歩から帰ってくると携帯に着信があった。
この春、高校生になる教室の生徒からだった。

学校の春休みの課題作文か入学式の答辞の相談かしらと思い、かけ直すが出ない。

するとLINEに「すみません。あとで説明します」と返信があった。

しばらくしてから、

「先ほどはすみませんでした。小さな男の子が家に入ってきてパニックを起こしていたんです。それで、先生に相談しようと思って電話をしたのですが、つながらなかったので、友達に来てもらって、一緒に交番に行ってもらいました。無事に男の子は帰宅できました」

と連絡があった。

お父さんもお母さんも仕事で不在にしているときに、いきなり知らない誰かが家に入ってきたら、例え小さな男の子でもびっくりしただろう。

初めてのことで「どうしよう!?」と思ったと思う。咄嗟に「相談しなきゃ!」と思って連絡をくれたのが嬉しかったし、ちゃんと「助けて!」と言えるのが良いなぁと思った。

彼女はとてもしっかりしている。
幼いころからご両親が仕事で忙しいこともあり、お弁当も自分で作るし、家事もこなす。
教室も勉強も部活動もコツコツ励んでいる。成績も優秀。マイペースで優しくていつも穏やかだ。

周りから「できる子」と思われると、放っておかれることも多い。それが故に助けを求めることができないこともある。

昔、勤めていた職場で新人教育を担当していたとき、とても優秀な後輩が入ってきた。
この子は大丈夫だろうと思い込んでおり、他の手のかかる子の指導に注視していた。

ある日、彼女から
「私だってできないことがあるんです。わかるだろうと思われて教えてもらっていないこともあります。この子はできるからと思われていると思うと、聞くに聞けないんですよね」

と言われたことがあった。

大いに反省した。そうかそうだったのか。言ってくれて良かった。言われなかったら、気づかないまま放っておいてしまったと思う。

このことがあってから、どんなにできる子でも、気にかけるようにしている。

高校生になる彼女がちゃんと「助けて!」が言えるくらいには私も成長したのかもしれない。

新年度が始まった。どの子にも分け隔てなく気を配りたいと改めて思った。

「助けて!」が言いやすい環境を私たち大人がつくっていかなければ。